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糖尿病教室

糖尿病と心臓・血管疾患(第2部)

講師 亀岡病院 理事長

大槻 克一

 

前回の「糖尿病と心臓・血管疾患」に続き、今回は「心臓・血管疾患の診断と治療」について解説します。

冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)の診断と治療

糖尿病の方は、胸の痛みなどの症状が出にくいため冠動脈疾患に関しては、積極的な検査による早期診断と早期治療が重要です。太腿または腕の皮膚を穿刺してカテーテルという細い管を動脈内に入れ、これを心臓まで進めて冠状動脈に先端を引っ掛け、造影剤注入と同時にレントゲン撮影を行う冠動脈造影によって確定診断が行われてきました[図1]。しかし、近年、一度に多くの断面が撮れるマルチスライスCTが開発され、カテーテルを用いずに腕から点滴をするだけで冠状動脈の写真を撮ることが可能になりました[図2]。この冠動脈CTは、入院の必要がなく体にも負担が極めて少ないこと、一般のカテーテル検査では得られない血管壁の情報[図3]が得られることが、優れた点として挙げられています。

 

図1・2

図3

 

治療として最も一般的に行われているのは、風船(バルーン)付きカテーテルによって動脈硬化で狭くなった血管を拡張する治療法です[図4・5]。ただ、これのみで治療を終了すると3ヶ月から6ヶ月後に再び血管が狭くなること(再狭窄)がしばしば起こるため、バルーンで血管を拡張した後、引き続きステンレス製の網状の筒(ステント)をその部分に留置することがよく行われます[ステント留置術[図6・7]。

最近では、再狭窄を防ぐ薬を含ませたステント(薬剤溶出性ステント)がよく使われるようになり、ステント留置後の再狭窄は著しく減少しました。ただし、糖尿病の方の冠動脈では、治療した部分が再狭窄をのがれても別の部位に新しい狭窄病変が出現しやすいので十分な注意が必要です。狭窄病変が非常に多い場合や病変が長すぎる場合など、バルーン付きカテーテルでの冠動脈拡張とステント留置による治療(冠動脈形成術)が困難な方には、冠動脈バイパス手術が選択されることもあります。

 

図4・5

図6・7

 

閉塞性動脈硬化症の診断と治療

糖尿病の方で、足先の冷感・しびれや歩行時の足の痛みなどの症状が出現してきた場合は、四肢血圧脈波計による検査を行い、足の血圧が腕の血圧に較べて著しく低下していないか調べます[図8]。この検査で異常があれば、実際に足へ行く血管が動脈硬化で細くなっているかどうかを調べます。以前は、太腿の皮膚を穿刺してカテーテルを動脈内に入れ、造影剤注入と同時にレントゲン撮影を行う下肢動脈造影によって診断をしていましたが、心臓と同様、入院を必要としないCT下肢動脈造影による診断が可能になりました[図9]。

このCT造影検査で狭窄部位があれば、冠動脈疾患と同じくバルーン付きカテーテルでの血管拡張とステント留置(動脈形成術)を行います[図10]。動脈形成術が不可能な場合は、バイパス手術を行うこともあります。

 

図8

図9・10

 

脳血管障害(脳出血・脳梗塞)の診断と治療

糖尿病の方に合併しやすい脳血管障害には、脳出血と脳梗塞があります。頭痛、意識障害、体の一部の麻痺、呂律が回りにくいなどの症状があれば、できるだけ早くMRIやCTの検査を行うべきです[図11]。

脳出血の場合は、出血の部位や程度によって外科手術を行うか薬を使って経過観察を行うかが選択されます。脳梗塞の場合は、脳のむくみをとる薬や脳の障害を抑えるための薬を使って経過観察を行います。患者さんの年齢や発症からの時間によっては、つまった血管を通す薬を使用する場合もあります。また、可能な限り早期からリハビリテーションを開始して、身体機能の回復に努めることが勧められています。

 

図11

 

おわりに

従来、糖尿病患者さんでは、細小血管障害と呼ばれる糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害が問題となり、如何にこれらの合併症を防ぐかが課題でした。しかし、今日、それに加え、大血管障害と呼ばれる冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)、閉塞性動脈硬化症、脳血管障害(脳出血・脳梗塞)などの発症が問題となっています。日本人の成績である久山町研究から、糖尿病患者さんは正常者に比べて、脳梗塞や虚血性心疾患の発症率が約3倍であることが明らかになりました[図12]。

最近では、早期診断を行い、食事、運動などの生活習慣の改善、内服治療、インスリン治療などを糖尿病の重症度に合わせて開始するとともに、高血圧、脂質代謝異常など動脈硬化を進める他の病気の治療も厳格に行い、さらにアスピリンによる心血管疾患の再発予防を行うという手厚い治療(強化療法)によって心臓・血管疾患の出現が明らかに減少することが報告されています[図13]。
いずれにしても、糖尿病をお持ちの方には、細小血管障害や大血管障害が合併症として起こりうることをご理解いただき、定期的な検査や何か異常を感じられた時の早めの精密検査を受けていただくようお勧めいたします。

 

図12・13

 

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